Sifting Through the Embers

  • ダグラス・アダムスの本「これが見納め」の最終章を勝手に訳してみた。
  • 著者は「シビュラの書」が元ネタだと書いているが、神話そのままではない様子。
  • ちゃんとした訳は和訳本を読んだほうがいいですよ。というか、最終章だけ読んでも著者と同じように「理解できない」かもしれないので、本編読むのをおすすめします。


灰をかき回す

私が若いときに聞いたある物語がある。当時私はそれを理解できずに悩んだ。月日は流れ、私はそれが「シビュラの書」という物語であることを発見した。物語の細部は私の頭のなかで書き変わっていたが、本質的な部分は同じだった。世界の絶滅危惧種の環境を見て回った後で、私はこの話をようやく理解できように思う。

大昔、ある場所にある都市があった。広い平野の中央にあり、とても豊かで繁栄している都市だった。ある夏のこと。人々はますますの急成長と繁栄を続けていた。そこへ、奇妙でみすぼらしい老婆が、大きな12冊の本をもって城門に現れた。彼女はこの本を彼らに売りたいと言い出した。彼女は言った。この本にはこの世界のありとあらゆる知識と知恵が納められている。金1袋と引き換えに、この都市に12冊全てを与えよう、と。

都市の人々は、これをとても馬鹿馬鹿しいことだと考えた。彼らは言った。あんたは全く黄金の価値をわかっていない、引き返すがよかろう、と。

彼女は同意した。しかしまず、彼らの前で、この本の半分を燃やすのだといった。彼女は小さなたき火を作ると、人々の目の前で、ありとあらゆる知識と知恵の納められた本の6冊を燃やした。そしてどこかへ去ってしまった。

冬が訪れ、過ぎていった。厳しい冬だったが、都市は何とか繁栄を保った。次の夏、老婆は戻ってきた。

「おや、また来たか」都市の人々は言った。「ありとあらゆる知識と知恵はどうなった?」
「6冊。」彼女は言った。「残り、6冊。世界のありとあらゆる知識と知恵の半分だ。もう一度、これをあんたたちに売ってあげよう」
「本当かい?」人々は馬鹿にしたように笑った。
「ただし、値段は変更さ」
「驚かないさ」
「黄金2袋だ」
「なんだって?」
「ありとあらゆる知識と知恵の残り6冊が金2袋。取るか、捨てるか」
「我々には」人々は言った。「あんたに知識も知恵もあるように思えない。でなければ、買い手次第の状況で 、すでにばかげた値段を更に4倍にすることはできないことが分かるだろう。もし、あんたが売り歩いているそれに、知識と知恵が揃ってるなら 、率直に言って、他の値段にできるはずだ。」
「いるのかい、いらないのかい?」
「不要だ」
「あいわかった。申し訳ないが、少し薪をくれないかい」
彼女はもう一つ焚き木を作ると、彼らの目の前で本の残り3冊を燃やした。そして平野を戻り去っていった。

その夜、変わり者がひとりふたり、都市からこっそり抜け出してきた。それから灰をかき回して、ページの1、2枚でも見つけられないかと見まわした。しかし、火はすっかり燃えきっており、灰は老婆によって掃除されていた。そこには何も見つからなかった。

再び厳しい冬が訪れ、都市は打撃を受けた。都市はいささかの食糧不足と病気に悩まされたが、交易は好調だった。したがって、人々は、次の夏までには再び持ち直していた。そこへ、再び老婆が現れた。

「今年は早かったな」
「荷物が減ったからね」持っている3冊の本を見せながら、彼女は話した。「世界のあらゆる知識と知恵の4分の1。欲しくないかい?」
「値段は?」
「金4袋。」
「あんたは完全に気が狂ってる。まあそれは置いておこう。我々の経済は今少し問題を抱えている。袋の黄金など全くもって問題外だ。」
「薪をおくれ」
「ちょっと待ってくれ」人々は言った。「これでは誰にも良いことがない。我々はこのことについてあらゆる点で考え、あなたの本を確認するための小さな議会を結成した。数ヵ月間その本を評価させてくれないか。我々にどんな価値があるか確認させてくれないか。そうすれば、次の年にあなたが訪れたとき、ひょっとしたら、我々は何らかの合理的な追加案をだせるかもしれない。ただ、黄金の袋について、ここで議論するつもりはない。」
老婆は首を振った。「駄目だね」とひとこと言った。「薪を持ってきておくれ」
「高くつくぞ」
「構わないさ」老婆は肩をすくめて言った。「この本はとてもよく燃えるだろう」
そう言うと、彼女は本のうち2冊をバラバラに裂いた。それはあっさり燃えてしまった。彼女はさっさと平野を去り、残された人々は次の年を迎えた。

老婆が戻ってきたのは、春の終わる頃だった。
「残り、1冊。」本を地面に置き、彼女は言った。「薪も自分で持ってこれたよ」
「いくらだ」人々は言った。
「金16袋。」
「我々は金8袋しか持ちあわせていない」
「取るか、捨てるか」
「待ってくれ」
人々はその場を離れて話し合い、30分ほどで戻ってきた。
「金16袋は我々の全財産だ」彼らは訴えた。「今は景気が悪いんだ。我々にいくらか残すべきだ」
老婆は鼻歌を歌いながら、薪を組み始めた。
「わかった!」彼らはとうとう叫んだ。そして都市の門を開き、2台の牛車を連れてきた。牛車それぞれには金8袋が積まれていた。「だが、これで十分だろう」

「まいどあり」老婆は言った。「他の11冊も買っておけばよかったのにね」

老婆は2台の牛車をつれて平野を去った。残された人々は、出来るかぎりのことをして生きのびた。かつて世界にあった、ありとあらゆる知識と知恵を納めていた12冊の本、その残り1冊と共に。